「5棟10室基準」で節税効果を高めるために知っておくべきこと

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「5棟10室基準」で節税効果を高めるために知っておくべきこと

不動産投資はただ物件を購入すれば良いという単純なものではありません。節税対策や税務リスクなど、様々な要素を理解した上で戦略的に進める必要があります。その中でも特に重要なのが「5棟10室基準」です。この基準は、あなたの不動産投資が「事業的規模」とみなされるかどうかの分かれ目となり、税制上のメリット・デメリットに大きく影響します

 

そこで今回は、5棟10室基準の概要から具体的な計算方法、得られるメリットから注意すべきポイントまで詳しく解説していきます。5棟10室基準を理解することで、節税効果を最大化し、より効率的な不動産投資を実現できるでしょう。これから不動産投資を始めようと考えている方、既に投資を始めている方も、ぜひ本記事を参考にしてみてください。

「510室基準」とは
不動産投資が事業的規模かどうかの判断基準

5棟10室基準とは、不動産所得が事業的規模とみなされるかどうかを判断し、税額を決める際の基準の一つです。法律で定められているわけではなく、行政内の見解を統一させるために所得税法の基本通達のなかで設けられました。

 

参考:国税庁法 「第26条《不動産所得》関係 (建物の貸付けが事業として行われているかどうかの判定)」

 

具体的には、下記のいずれかに該当する場合は、行っている不動産経営が「事業」とみなされます。

 

【独立家屋(戸建て)を5棟以上貸し付けている】
【アパートなどの独立した部屋を10室以上貸し付けている】

 

つまり、「戸建て貸家なら5棟、アパートなら10室以上を経営していたら事業とみなします」というボーダーラインを示すことから、「5棟10室基準」と呼ばれているのです。

 

そしてこの基準は、不動産投資を検討する際には必ず理解しておくべきでしょう。なぜなら、事業に値するか否かによって「節税効果」が変わってくるからです。例えば、510室基準を満たさない場合、不動産所得は「雑所得」として扱われ、給与所得などと合算されて課税されます。一方、基準を満たすと「事業所得」となり、青色申告特別控除など、事業所得ならではの税制優遇措置を受けることが可能になるのです

 

510室基準の計算式を覚えておこう

前述の通り、5棟10室基準は「戸建て貸家なら5棟、アパートなら10室以上で事業に該当する」というシンプルな基準です。そのため、所有物件の種類に応じて戸数もしくは棟数を数えるだけで簡単に判断できます。

 

しかし、「戸建て貸家とアパートの両方を経営する場合はこの計算で合っているのか?」といった不安や、「貸駐車場や貸宅地も経営している場合はこの基準に含まれるのか?」といった疑問を持つ方もいるかもしれません。ここでは、種類の異なる不動産を複数経営する場合の計算方法について、具体的な例をもとに解説していきます。

 

<計算方法の基本>

前提として、5棟10室基準では「戸建て貸家1棟とアパート2室は同等」とみなされています。つまり、戸建て貸家を1棟経営している場合は「アパート2室を経営している」と置き換え可能です。同様に貸駐車場や貸宅地もアパートの室数に換算でき、その合計が10室を超えれば不動産投資全体が「事業的規模」と判断されます。最終的にはアパートの室数に置き換えますが、貸駐車場や貸宅地は一度戸建て貸家に置き換え、その後戸建て貸家の棟数をアパート室数に換算したほうが計算しやすいので、以下の換算方法を覚えておきましょう

 

「アパート2室」=戸建て貸家1棟
「貸駐車場10台」=戸建て貸家1棟
「貸宅地2筆」=戸建て貸家1棟

 

上記を踏まえ、実際に3つのパターンについて計算してみましょう。


<戸建て貸家1棟+4室のアパート1棟+貸駐車場10台を経営するパターン1

 

「戸建て貸家1棟」=アパート2室分
「4室のアパート1棟」=アパート4室分
「貸駐車場10台」=戸建て貸家1棟分=アパート2室分


これらを合計するとアパート8室分となり「5棟10室基準」を下回るので、これらの不動産経営は事業的規模には該当しません。

<戸建て賃家1棟+6室のアパート1棟+貸宅地2筆を経営するパターン>


「戸建て貸家1棟」=アパート2室分
「6室のアパート1棟」=アパート6室分
「貸宅地2筆」=戸建て貸家1棟分=アパート2室分


これらを合計するとアパート10室分となり、「5棟10室基準」を満たすので、これらの不動産経営全体が事業的規模と判断されます。

 

510室基準を満たすことで得られるメリット


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10室基準を満たすことで「事業的規模」とみなされ、様々なメリットを受けることができます。具体的には以下の2つです。

「青色申告特別控除」や「事業専従者控除」を受けられる

不動産経営が事業的規模と判断されると、その所得は「給与所得」や「配当所得」などではなく「事業所得」とみなされます。これは税務上、大きなメリットをもたらします。事業所得として認められると、確定申告時に青色申告を選択できるようになり、最大65万円の「青色申告特別控除」を受けられるのです。青色申告特別控除とは、帳簿書類をきちんと作成し、保存している事業者に対して税負担を軽減するための制度です。e-Taxを利用して電子申告を行う場合は65万円、そうでない場合は55万円が事業所得から控除されるため、所得税・住民税の節税効果が期待できます。

 

さらに、不動産経営を行う中で配偶者や子に給与を支払っている場合は、「青色事業専従者給与」や「事業専従者控除」の適用を受けることも可能です。これは家族への給与を経費として計上でき、。「青色申告特別控除」同様に節税効果を高めることができます。青色申告を選択している場合は「青色事業専従者給与」、白色申告の場合は「事業専従者控除」が適用されます。ただし、事業専従者として認められるためには一定の要件があり、もし満たしていない場合は税務調査で否認される可能性もあるため注意が必要です。

家賃滞納や災害の損失額を計上できる

事業的規模の賃貸経営は、家賃滞納や災害発生時の損失計上に関しても有利な扱いを受けることができます。一般的な賃貸経営の場合、家賃の未回収分は一旦収入として計上し、確定申告後に回収不能が確定した場合に税金の還付手続きを行う必要があります。しかし、事業的規模の賃貸経営であれば、未回収の家賃は「損失」としてその年の必要経費に算入できるため、還付手続きの手間がかかりません

 

また、災害による損失があった場合も、一般的な賃貸経営と事業的規模の賃貸経営では対応が異なります。一般的な賃貸経営の場合は、被害が発生した年度しか損失を計上できません。一方、事業的規模の賃貸経営の場合は、被災年度を含めて3年間にわたって損失を計上できるというメリットがあります。これは、災害による損失が長期にわたる場合でも税負担を軽減できることを意味します。具体的には、地震や台風などの自然災害によって建物が損壊した場合、修繕費用や建物の価値の減少分を損失として計上しますが、事業的規模であればこれらの損失を3年間かけて計上できるため税負担を分散できるのです。

 

5棟10室基準を満たした場合に注意すべきこと


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10室基準を満たすことで税制上のメリットがある一方で、デメリットや注意点も存在します。

「個人事業税」が発生する場合がある

不動産賃貸事業の収入が拡大した場合、「個人事業税」の納税義務が発生する可能性があります。個人事業税は、事業所得に対して課税される地方税です。5棟10室基準を満たし、事業的規模と認められることで、所得税や住民税において様々なメリットが得られますが、同時に個人事業税の納税対象となる可能性も出てきます。ただし、事業所得が事業主控除額である290万円以下の場合は、個人事業税は課税されません。事業主控除とは、事業所得から控除できる金額のことで、事業所得が290万円以下の場合は、個人事業税の負担はありません。また、既に納付した個人事業税は経費計上が可能です。個人事業税の納税は事業拡大に伴うものなのでこれを経費として計上できることは、事業継続にとって重要なポイントです。

 

なお、個人事業税の課税対象となる事業規模の基準は、「5棟10室基準」とは異なり、各自治体によって独自の基準が設けられています。そのため、事業を展開する地域の自治体に確認し、適用される基準を把握しておくことが重要です。事業規模の拡大に伴い、個人事業税の納税義務が発生する可能性を踏まえながら適切な対策を講じることで、税負担の増加を最小限に抑えることができるでしょう。

「青色事業専従者給与」と「配偶者控除」「扶養控除」は併用不可

前章で5棟10室基準を満たすメリットとして、「青色事業専従者給与」を適用できる点を挙げましたが、これを活用する場合は「配偶者控除」や「扶養控除」の適用を受けることができなくなります。「配偶者控除」や「扶養控除」とは、一定の要件を満たす配偶者や扶養親族がいる場合に所得控除を受けられ、税負担が軽減される制度です。

 

一方で、「青色事業専従者給与」も家族への給与を経費として計上することで課税対象額を減らし、税額を少なくできます。節税効果を最大限に高めるためには、それぞれの控除額を計算し、どちらが有利か慎重に判断することが重要です。適用される控除額は個々の状況によって異なるため、税理士などの専門家に相談しながら最も効果的な方法を選択できると良いでしょう。

 

メリットだけでなく注意点も理解しておくことが節税効果を最大化するコツ

 

5棟10室基準は、不動産投資における事業規模を判断する上で重要な基準であり、節税効果を高めるための戦略的な手段の一つと言えるでしょう。この基準を満たすことで、事業的規模として認められ、「青色申告特別控除」(最大65万円)や「事業専従者控除」を活用できるようになります。これらの控除は、所得税・住民税の負担軽減に大きく貢献し、投資効率の向上に繋がります。また、家賃滞納や災害による損失を必要経費として計上できるため、予期せぬ事態による財務リスクを軽減できるメリットも見逃せません。

 

しかし、5棟10室基準を満たすことによるメリットだけでなく、潜在的なデメリットや注意すべき点も存在します。事業規模の拡大に伴って個人事業税の納税義務が発生する可能性や、「青色事業専従者給与」を活用する場合は「配偶者控除」や「扶養控除」が適用対象外となる点には留意が必要です。また、駐車場や土地などを経営している場合は「5棟10室基準」の計算方法が複雑になる場合もあるため、自身の不動産投資が事業規模に該当するかどうかは税理士等の専門家の意見を踏まえながら判断することを推奨します。

 

私たち今村不動産では、不動産の開発やご紹介以外にも、提携している税理士など専門家のご紹介も可能です。不動産投資に関する資金や経費のお悩みにもお応えできますので、ぜひお気軽にご相談ください。

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